再生可能エネルギーの拡大と電力市場の制度改革を背景に、系統用蓄電池の役割は大きく変化しています。
従来のバックアップ電源という位置づけから、需給調整や市場取引を通じた「収益を生み出すエネルギー資産」へと進化しつつあります。
この動きを支えるのが「アグリゲーター」と呼ばれる新たなプレイヤーです。アグリゲーターは、分散化した蓄電リソースを束ね、電力市場と接続することで、法人施設に眠るエネルギー資産を事業化することを可能にします。
ここでは、アグリゲーターを活用した蓄電池ビジネスの今後の展望と、導入に際して考慮すべき制度的・技術的な課題について詳しく解説します。
系統用蓄電池とは?再エネ拡大を支える電力インフラの要
再生可能エネルギーの導入が進む中で、その出力の不安定さが電力系統に与える影響は無視できなくなっています。太陽光や風力などの再エネは、天候や時間帯によって発電量が大きく変動するため、安定した電力供給を維持するためには、それを補完する設備が必要不可欠です。
この課題に対応する存在が、系統用蓄電池です。電力を一時的に蓄え、必要なときに放電することで、再エネの変動を吸収し、電力の安定供給を支えるインフラとして重要な役割を担います。
電力系統の安定化と蓄電池の役割
電力系統は、常に「需要=供給」というバランスの上で成り立っています。発電量が需要を上回れば系統の周波数が上昇し、逆に下回れば周波数が低下します。このバランスが崩れると、停電などのトラブルに直結するおそれがあるため、極めて高い精度での需給調整が求められます。
系統用蓄電池は、発電量が過剰なときには余剰電力を蓄え、不足しているときには即座に放電して系統の安定化を図ることができます。従来は火力発電所が担っていたこの役割を、CO₂を排出しない蓄電池が代替することで、脱炭素と安定供給の両立が可能になります。
出力制御・需給調整への貢献
日本国内では特に、太陽光発電の普及が進んだ地域で出力制御が頻繁に行われるようになっています。たとえば、九州電力管内では、発電量が需要を大きく上回る日には太陽光の出力を強制的に抑制する措置が取られています。
蓄電池を活用すれば、こうした出力抑制を避けることができます。発電した電力をいったん蓄電池に蓄え、需要が増える時間帯に放電することで、無駄なく再エネを活用できます。また、電力需要の急激な変動にも柔軟に対応できるため、需給調整力としての価値も高まっています。
日本国内の導入状況と将来展望
日本では、系統用蓄電池の導入はまだ発展途上にありますが、政府による補助制度や市場制度の整備が進む中で、着実に導入件数が増えています。特に需給調整市場や容量市場への参加が可能となったことで、投資回収の見通しが立ちやすくなり、事業としての魅力が高まっています。
今後は、再エネの導入量がさらに増加することが予想されており、それに比例して系統用蓄電池の需要も拡大すると見込まれます。技術の進化により、蓄電池の価格は低下傾向にあり、設置スペースや運用コストの課題も徐々に解消されつつあります。中長期的には、電力システムの基盤として不可欠な存在になることは間違いありません。
アグリゲーターとは?分散型エネルギーを束ねる新たなプレイヤー

再エネや蓄電池といった分散型エネルギーリソース(DER)が増加する中、それらを束ねて制御し、価値あるエネルギーサービスとして市場に提供する役割を担うのが「アグリゲーター」です。
個別には小さな電源や蓄電池でも、それを束ねることで、系統への影響力を持つ存在となります。
アグリゲーターは、再エネの有効活用、電力の地産地消、系統の負荷緩和といった目的を達成するための新しいプレイヤーとして注目されています。
アグリゲーターの定義と分類(VPP、DR、リソースアグリゲーターなど)
アグリゲーターとは、分散型の電力リソースを集約して統合的に管理し、電力市場や系統運用に対してサービスを提供する事業者のことを指します。主な分類としては、以下のようなタイプがあります。
VPP(バーチャルパワープラント)は、複数の発電設備や蓄電池、需要家を仮想的に一つの発電所のように統合して運用する仕組みです。需要家のエネルギー機器をリモートで制御し、出力調整や需給調整のために活用します。
DR(デマンドレスポンス)においては、需要側の電力使用を調整することで系統の需給バランスを維持します。たとえば、電力がひっ迫した際に一時的に消費を抑えることなどが求められます。
その他、リソースアグリゲーターと呼ばれる事業者は、特定の蓄電池や設備に特化して管理運用を行い、市場参加やサービス提供を行うこともあります。
蓄電池との連携による需要応答(DR)や市場取引の仕組み
アグリゲーターは、蓄電池と連携することで、需要応答(DR)や電力市場での取引を効率的に実現できます。たとえば、電力需要が高まる時間帯に蓄電池から電力を供給したり、電力需要が低下した際に蓄電池へ充電するなど、タイミングを見極めた制御によって系統の安定化と収益確保を同時に実現します。
このような仕組みは、エネルギーマネジメントシステム(EMS)と連動して高度な制御が求められますが、通信技術やAIの進化により、実用性が高まっています。アグリゲーターは、これらの技術を駆使しながら、電力リソースの調整役を担っているのです。
アグリゲーターと電力市場(容量市場・需給調整市場など)との関係
電力市場において、アグリゲーターは新たな競争主体として注目されています。容量市場では、将来にわたる供給能力を確保するために「容量」を取引する仕組みがあり、アグリゲーターは蓄電池を活用してこの市場に参加することが可能です。
また、需給調整市場では、瞬時の電力バランスを調整するサービスが求められており、アグリゲーターが統合管理する複数の蓄電池が、極めて柔軟な調整力として評価されています。特に、短時間での出力制御や遠隔操作が可能な点は、大規模な発電所にはない強みです。
日本でも制度整備が進められており、2024年以降、本格的な市場取引への参入が加速しています。今後、アグリゲーターと蓄電池の連携は、電力市場における新たな価値創出の鍵となるでしょう。
系統用蓄電池とアグリゲーターの協調モデル
再生可能エネルギーの拡大に伴い、電力の需給バランスを調整するための技術的・制度的な仕組みが急速に整備されています。その中心的な役割を担うのが、系統用蓄電池とアグリゲーターの協調モデルです。両者が連携することで、蓄電池の活用価値が高まり、電力システム全体の効率化と柔軟性が実現されつつあります。
需給バランス調整と再エネ出力の最適化
再エネ電源は天候や時間帯に大きく依存するため、出力が予測しづらく、従来の電力系統では対応が難しい場面が多々あります。蓄電池はこうした不安定な出力を吸収する役割を担い、過剰な発電を一時的に蓄えたり、需要が高まるタイミングで放電することが可能です。
アグリゲーターは、この蓄電池の動作をリアルタイムで制御し、需給バランスの調整役を果たします。例えば、電力需給が逼迫する直前に蓄電池を放電させたり、逆に電力が余る時間帯に充電を促すことで、系統の安定運用に大きく貢献します。
VPP(仮想発電所)による複数蓄電池の統合運用
VPP(バーチャル・パワー・プラント)は、複数の分散型エネルギーリソース(DER)を仮想的に一つの発電所として統合し、統一的に制御・運用する仕組みです。系統用蓄電池がVPPに接続されることで、個々の蓄電池が持つ出力や容量を束ねて、まとまった調整力として市場に提供することができます。
この統合管理には高度な制御技術と通信インフラが必要ですが、アグリゲーターが介在することで、電力会社や電力広域機関とのデータ連携、需給予測、制御指令の一元管理が可能になります。これにより、単体では収益性の低い中小規模の蓄電池でも、VPPを通じてビジネスとして成立する可能性が広がります。
アグリゲーションによる収益化モデルとメリット
アグリゲーターを活用したビジネスモデルでは、系統用蓄電池は単なる“設備”ではなく、“市場参加可能な資産”として位置づけられます。需給調整市場、容量市場、ネガワット取引などへの参加が可能となり、蓄電池を通じた新たな収益源の確保が現実のものとなります。
企業にとっては、エネルギーコスト削減やBCP対策に加え、エネルギーインフラからの収益化という新たな視点が加わることで、投資対効果の大幅な向上が期待できます。また、系統安定化への貢献が社会的評価にもつながり、ESG投資やRE100対応にも資する形で活用の幅が広がります。
実際の取り組み事例と国の政策動向

日本国内でも、アグリゲーターと系統用蓄電池を組み合わせた取り組みが本格化しつつあります。国や自治体の支援制度の整備も進み、導入ハードルは着実に低下しています。
日本でのアグリゲーター実証事業と導入事例
経済産業省が主導した「VPP構築実証事業」や「DR実証」などでは、複数の電力会社、ベンダー、需要家が参加し、アグリゲーターによる蓄電池制御の有効性が実証されました。これらのプロジェクトでは、地域分散型の蓄電池を通信ネットワークでつなぎ、リアルタイムでの出力調整が行われています。
たとえば関西電力エリアでは、工場や物流施設に設置された蓄電池を束ね、需給調整市場での入札・運用が行われています。
また、自治体が保有する防災拠点の蓄電池をVPPに組み込み、平常時は市場活用、非常時はBCP対応に使い分けるハイブリッドな運用も始まっています。
経済産業省や電力広域機関による制度整備と補助金
政府はVPPの商用化に向けて、法制度や市場制度の整備を進めています。特に、需給調整市場の創設(2021年~)や容量市場の本格稼働(2024年~)は、蓄電池活用にとって大きな転機となりました。
さらに、アグリゲーター制度の法的位置づけも明確化され、参入要件や電力会社との連携ルールが整備されつつあります。これにより、法人が第三者アグリゲーターと連携しながら、自社の蓄電池を収益化する環境が整いつつあります。
また、VPP構築に向けた補助金制度(例:地域エネルギー資源活用事業、DER補助金など)も設けられており、初期費用を大幅に抑えた導入が可能です。
系統用蓄電池の導入支援策(補助金、RE100への対応等)
環境省・経産省・自治体レベルで、多様な補助金や優遇制度が用意されています。なかでも、脱炭素経営を目指す法人にとっては、RE100(再エネ100%)やSBT(科学的根拠に基づく目標)対応の文脈で、蓄電池の導入が強く求められています。
RE100対応を進める企業の中には、再エネ由来電力を自社施設で最大限活用するために全負荷対応の蓄電池を導入し、系統との整合性を取りながらCO₂排出削減を実現している例も増えています。こうした事例では、蓄電池の導入がCSRやIR上の価値にもつながり、企業の社会的評価にも寄与しています。
今後の展望と課題|アグリゲーターを活用した蓄電池ビジネスの可能性
系統用蓄電池とアグリゲーターの連携は、これまでの電力供給モデルを大きく変える可能性を秘めています。単なる設備投資ではなく、電力市場に参加し収益を得る「ビジネスインフラ」としての機能を持つようになりつつあります。
導入拡大の鍵となる制度設計と市場整備
今後の拡大に向けて最も重要な要素の一つが、制度設計と市場整備です。需給調整市場や容量市場といった新たな電力市場は、系統用蓄電池の活躍の場を提供しますが、参入に必要な条件や認定制度、契約方式などが複雑で分かりにくいという声もあります。
政府はこれらの市場への参加を促すため、アグリゲーターに対する制度的な整備を進めています。事業者認定の要件明確化、系統接続のルール標準化、価格メカニズムの見直しなどが進めば、中小規模の法人でも安心して市場参入できる環境が整うでしょう。
また、蓄電池導入に対する補助金・優遇税制の継続や拡充も、初期投資のハードルを下げる上で不可欠です。国だけでなく自治体レベルでの支援制度の動向も注視が必要です。
民間投資・電力小売事業者との連携可能性
電力市場において、アグリゲーターが単独で活動するのではなく、電力小売事業者や発電事業者と連携していく動きが活発化しています。法人向け電力サービスを提供している小売電気事業者が、顧客の施設に蓄電池を設置し、それをアグリゲーターが管理・制御するモデルも現実のものとなっています。
このような連携により、法人側は設備費用の一部を第三者が負担し、代わりに市場収益の一部を共有するスキームが可能になります。PPAモデルやリース形式との組み合わせにより、財務負担を軽減しながら、エネルギーの自立性と収益性を同時に高めることができます。
電力会社にとっても、蓄電池とアグリゲーターを活用することで、再エネ調整力の確保や需要家の囲い込みといった戦略的メリットがあります。今後は、こうした連携が当たり前となる「エネルギーの共同運用時代」が訪れると考えられます。
課題:制御技術、通信インフラ、事業性評価など
一方で、課題も少なくありません。まず、蓄電池を遠隔で制御し、複数拠点を統合管理するには、高度なEMS(エネルギーマネジメントシステム)と安定した通信インフラが必要です。5GやLPWAといった次世代通信の導入が進んではいるものの、現時点ではエリアや品質にばらつきがあるのが実情です。
また、システムの導入・保守コスト、性能評価方法、収益見込みのシミュレーション精度といった「事業性の見通し」も、企業側の懸念材料となっています。とりわけ、電力市場の価格変動や政策の変更が収益に与える影響をどう織り込むかは、長期的な事業設計において重要な判断要素です。
さらに、蓄電池の性能劣化やサイバーセキュリティなど、運用フェーズでのリスクマネジメント体制の構築も求められます。これらの技術的・制度的課題を乗り越えることで、蓄電池ビジネスの可能性はさらに広がっていくはずです。
まとめ|アグリゲーター活用で広がる系統用蓄電池の可能性
アグリゲーターと蓄電池の連携は、法人にとって単なるコスト削減策ではなく、新たな収益機会をもたらすエネルギー戦略の柱となりつつあります。災害時のレジリエンス強化やRE100対応といった社会的要請に応えると同時に、電力市場への参加を通じて事業としての収益性も確保できるのが大きな魅力です。
今後、制度の整備や市場の成熟、技術の進化が進めば、より多くの法人が蓄電池とアグリゲーターを活用する時代が到来するでしょう。すでに導入が進んでいる先進企業に学びながら、自社にとって最適な導入モデルと事業設計を検討することが、これからのエネルギー戦略において大きな価値を持ちます。
今まさに、電力を「使う」だけでなく「管理し、稼ぐ」時代が始まっています。その一歩を踏み出すために、アグリゲーターと系統用蓄電池の可能性を正しく理解し、適切に活用していくことが求められています。