再生可能エネルギーの普及とともに注目を集める系統用蓄電池。しかし、導入を検討する際に忘れてはならないのが「電気事業法」との関係です。
蓄電池を設置するだけで「発電事業者」に該当するのか?届け出は必要なのか?補助金や技術基準との関連は?といった疑問を抱える企業担当者も多いはずです。
この記事では、「系統用蓄電池 電気事業法」というキーワードに着目し、法律の基本から実務上のポイント、今後の法制度の動向までをわかりやすく解説します。初めて蓄電池を導入する企業や、エネルギー関連事業者の方は必見の内容です。
系統用蓄電池とは?基本概要と導入の背景

再生可能エネルギーとの連携と蓄電池の役割
太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、発電量が天候や時間帯に左右されるという課題があります。
そこで重要な役割を果たすのが系統用蓄電池です。電力を一時的に蓄え、必要に応じて放電することで、出力の変動を吸収し、電力系統の安定化に貢献します。
産業用・商業用で注目が高まる系統用蓄電システム
従来は大規模な電力事業者の設備というイメージが強かった蓄電池ですが、近年では工場・オフィスビル・商業施設などでも導入が進んでいます。
電気料金のピークカットやBCP対策としても有効で、企業のエネルギー戦略において欠かせない存在となりつつあります。
電力インフラを支える電気事業法の概要
電気事業法は、日本の電力供給に関する枠組みを定めた法律で、1952年に制定されました。発電から送電・配電、小売まで、電力に関わるすべての事業を対象とし、電気の安定供給と公平な競争を実現するための制度設計が行われています。
この法律では、電気事業を大きく以下のように分類しています。
- 一般送配電事業:地域の送電・配電インフラを担う(例:東京電力パワーグリッドなど)
- 発電事業:電力をつくる(太陽光、風力、火力など)
- 小売電気事業:電力を販売する(新電力など)
- 特定送配電・特定電気事業など
蓄電池、特に系統用蓄電池(電力系統に接続され、需給調整や周波数制御などを担うもの)は、発電行為を行わないため、発電事業者の届出対象にはならないことが一般的です。
しかし、電気事業法上では、蓄電池が行う「充放電」や「電力取引」が電力供給の一部として扱われる場合もあり、たとえば以下のようなケースでは法的な位置づけが変わることがあります:
- 蓄電池にためた電力を他社に販売する → 小売電気事業に該当の可能性
- 系統運用者と連携して需給調整を行う → 系統運用上のルールやOCCTOとの調整が必要
つまり、蓄電池を設置するだけではなく、どう活用するかによって法規制の対象となるかが変わるのがポイントです。
電力の安定供給と利用者保護の両立を目的とする電気事業法

電気事業法の根本的な目的は、「電気の安定供給」と「利用者の利益保護」です。
再生可能エネルギーの拡大や災害リスクの増加など、現代のエネルギー事情に対応するため、次のような具体的な目的を持っています。
電気の安定的かつ効率的な供給
電気は貯めておくことが難しく、常に需給バランスを取る必要があります。そのため、電力会社同士が協調し、設備投資・系統運用・停電対策などを通じて、安定した電力供給体制を構築することが法律の主な目的です。
系統用蓄電池はこの目的に非常に貢献しており、太陽光や風力といった不安定な再エネを補完する役割を担います。
公正な競争の確保
電力自由化によって新規参入が可能になった今、旧来の大手電力会社と新電力が公平な条件で競争できるように、送配電の中立性確保や取引ルールの整備が進められています。
蓄電池事業者が電力市場(容量市場・調整力市場)に参加する際にも、公平なアクセスと情報開示が求められます。
消費者保護と料金の透明性
小売電気事業者が適正な料金設定を行い、顧客に対して不利益が発生しないようにすることも、電気事業法の重要な目的です。電力契約の内容やトラブル時の対応についても一定のルールが設けられています。
蓄電池からの電力販売やサービス提供においても、契約形態次第では小売事業者としての責任が発生します。
以下に「電気事業法の基本的な仕組みと分類」を見出しを分けて詳しく解説します。系統用蓄電池との関わりも含めて説明しています。
電気事業法における事業分類
電気事業法では、電力に関わる事業を主に以下の5つに分類しています。それぞれの分類により、必要な許認可や報告義務が異なります。
一般送配電事業
地域の送電網・配電網を所有し、他の事業者に中立的に供給することを担う事業です。地域独占が認められており、東京電力パワーグリッド、関西電力送配電などが該当します。
系統混雑の緩和や需給調整力として蓄電池を活用する場面が増えています。
発電事業
発電設備(太陽光・風力・火力・水力など)を用いて電力をつくる事業。比較的小規模な発電事業者でも「届出制」により参入可能で、再エネ事業者の多くがここに分類されます。
蓄電池は発電装置ではないため発電事業には該当しませんが、併設することで出力の平準化が可能になります。
小売電気事業
発電された電力を一般消費者に販売する事業。新電力会社(PPS)が多数参入しており、電力自由化の象徴ともいえる分野です。登録制で、需給バランスの責任も問われます。
蓄電池からの電力販売を行う場合、小売電気事業への登録が必要となるケースがあります。
特定送配電事業
特定のエリアや施設内(例:工場やビル)の中で電気を配る事業。事業範囲が限定されているため、一般送配電より簡略な手続きで運用が可能です。
構内や敷地内でのエネルギーマネジメントに蓄電池を組み込むケースが増えています。
特定電気事業
特定の需要家に限定して電気を供給する事業。独立系電源とセットで導入されることが多く、スマートコミュニティなどで活用されます。地域エネルギーや自家消費型電源と蓄電池を連携させることで、災害対応力や省エネ効果を高めることができます。
蓄電池事業における「発電」や「小売」の扱いとは
蓄電池の事業利用に関しては、電気事業法上の扱いがやや複雑です。系統用蓄電池の普及が進む中、その運用方法によっては法的な分類や義務が変化するため、慎重な対応が求められます。
蓄電池は「発電事業者」には該当しない
大前提として、蓄電池は自ら電気を「つくる」装置ではなく、「ためる」設備です。このため、蓄電池を保有・運用しているだけでは、一般的に電気事業法における「発電事業者」には該当しません。
そのため、発電事業の届出義務や発電設備に関する技術基準の適用は原則として発生しないとされています。これは、太陽光や風力発電のように新たなエネルギーを創出するわけではないためです。
電力を販売する場合は「小売電気事業」に該当する可能性
一方で、蓄電池にためた電気を第三者に供給する場合は注意が必要です。たとえば、自社が所有する太陽光発電所で発電した電力をいったん蓄電池にため、それを別の企業や家庭に販売するようなスキームは、実質的に「小売電気事業」にあたる可能性があります。
この場合、電気の売買に関する契約行為や需給バランスの管理などが発生するため、電気事業法に基づく登録・申請が必要となることがあります。
系統用蓄電池としての利用は別の制度にも関係
さらに、蓄電池を系統用設備として利用し、需給調整や周波数制御などを担うケースでは、容量市場・需給調整市場といった制度に参加することになります。
このような取引は、一般の発電・小売とは異なる位置づけになるため、電気事業法の枠外にある規定(例:OCCTOの接続ルールや経産省の指針)との整合性が求められます。
市場参加には、技術的要件や登録手続き、システム運用ルールの順守が必要であり、場合によっては広域機関や送配電事業者との連携が不可欠です。
蓄電池事業は法的位置づけの確認が不可欠
蓄電池の扱いは「何に使うか」や「誰に売るか」によって法的な分類や必要な手続きが大きく変わります。
単なる自己消費用であれば問題にならなくても、外部との取引が絡む場合は、法的な誤解や手続きの不備が事業継続のリスクとなるおそれがあります。
したがって、蓄電池を活用した事業を始める際には、必ず電気事業法上の扱いを事前に確認し、必要に応じて専門家や行政窓口に相談することが極めて重要です。
系統用蓄電池に係る電気事業法上のポイント
蓄電池は「発電事業者」になるのか?
蓄電池自体は発電設備ではないため、通常は「発電事業者」としての登録義務はありません。ただし、再エネ電源と一体的に運用し、その電力を市場で売電する場合などは、発電事業者としての申請が必要になるケースがあります。
事業規模・電力の取引形態によって変わる法的位置づけ
蓄電池で充放電する電力が、自己利用なのか、他者への供給なのかによって、法律上の位置づけが変わってきます。例えば、蓄電池を活用したVPP(仮想発電所)やアグリゲーション事業を行う場合には、小売や送配電に準ずる扱いが必要となる場合もあります。
登録義務・報告義務・技術基準への対応は必要?
蓄電池を用いた電力の取り扱いによっては、経済産業省への事業登録、技術基準適合性の報告、定期的な運用報告が必要になることもあります。特に高圧電力を扱う設備では、技術基準省令の適用対象となるため、設計段階から法的要件を考慮する必要があります。
系統用蓄電池の導入時に確認しておきたい法的手続き・申請内容
経済産業省・電力会社への必要な届け出とは
蓄電池を系統連系させる場合、電力会社との連系協議が必要になります。また、事業規模が一定を超える場合には、経済産業省への届け出や、エネルギー使用計画の提出が求められるケースもあります。
連系協議や技術基準の適合審査の流れ
連系協議では、蓄電池が電力系統にどのような影響を与えるかを精査されます。系統の安定性を確保するため、過電圧保護や出力制御の設計が求められるほか、電圧変動や逆潮流の防止などにも配慮する必要があります。
補助金・認定制度との関係性にも注意
蓄電池の導入には、国や自治体による補助金が利用できる場合がありますが、その条件として「電気事業法に基づく適切な申請」が義務付けられていることもあります。誤った分類や未申請のまま設備を設置してしまうと、補助金の返還や罰則の対象となる可能性があるため注意が必要です。
今後の制度改正と系統用蓄電池への影響
蓄電池の取扱いに関する法制度の動向
近年、蓄電池は「蓄えるだけ」の存在から、「系統を支える重要な電源」へと進化しています。
これに伴い、電気事業法やエネルギー基本計画においても、蓄電池の位置づけが見直されつつあります。今後、蓄電池を含むエネルギーリソースの最適化を進めるための規制緩和や制度改正が進むと見られています。
脱炭素社会に向けたエネルギー政策の変化
政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」目標の実現に向け、蓄電池は今後ますます重要なインフラとして扱われるようになるでしょう。
法制度面でも、再エネ導入促進と併せて、蓄電池の導入・運用に関するルール整備が進むと予測されます。
まとめ|系統用蓄電池を導入する前に電気事業法を理解しよう
系統用蓄電池は、再エネの活用やエネルギーコスト削減、BCP対策として有効なソリューションですが、その運用には電気事業法との関係が密接に関わっています。
導入前には、自社の使用目的や運用形態に応じて、必要な届け出や技術基準、補助金との関係性を十分に確認しておくことが重要です。
法的リスクを未然に防ぎつつ、安心・安全に蓄電池を活用するためにも、最新の法制度と運用ガイドラインに目を向けることが求められます。