脱炭素化・電力コスト対策・災害対応を見据え、今、法人にとって「蓄電池の導入」は重要な経営課題のひとつとなっています。
とくに再生可能エネルギーの普及やBCP(事業継続計画)対策が進む中、需要が拡大しているのが産業用・系統用の定置型蓄電池です。蓄電池は電力系統の安定化やピークカット、自家消費最適化だけでなく、容量市場・需給調整市場といった新たな収益機会にも関与する“戦略的設備”として注目を集めています。
とはいえ、蓄電池メーカーによって提供される製品のスペック、対応領域、制御技術、補助金対応力は大きく異なります。自社にとって最適な蓄電池を選定するには、単なる価格比較にとどまらない多角的な視点が求められます。
本記事では、2025年最新版として、法人が蓄電池メーカーを比較・検討する際に注目すべき選定ポイントを解説するとともに、国内外の主要メーカー11社の特徴を詳細にご紹介します。
再エネ連携、BCP、コスト削減、そして市場参加といったあらゆるニーズに対応するための情報源として、ぜひご活用ください。
法人が蓄電池メーカーを比較・検討すべき理由
メーカーによって異なる技術力・保証体制・対応領域
蓄電池は「どのメーカーでも同じ」と思われがちですが、実際には製品の性能、耐久性、安全性、保守体制、拡張性、そして価格設定に至るまで、メーカーによって大きな違いがあります。
特に法人用途では、数年単位で運用されることを前提としているため、製品のスペックだけでなく、保証期間の長さやアフターサポートの体制が事業リスクを左右する重要な要素となります。
また、蓄電池を制御するEMS(エネルギーマネジメントシステム)との連携可否や、DR(需要応答)・VPP(仮想発電所)との統合運用に対応しているかどうかといった技術面の対応領域も、長期的な活用を見据えた選定には欠かせません。
たとえば、単に「停電時のバックアップ」を目的とするのか、「再エネの自家消費率向上」や「ネガワット取引での収益化」を視野に入れるのかで、選ぶべきメーカーやシステムの構成がまったく異なるものになります。
再エネ・BCP・市場参入など、導入目的に合った選定が重要
法人が蓄電池を導入する目的は多岐にわたります。
たとえば、工場や物流倉庫では停電対策として全負荷対応の蓄電池を、再エネ発電事業者は太陽光・風力と連携して出力制御対応や市場参入型のシステムを求めることが多いでしょう。
同じ「蓄電池導入」という枠組みであっても、目的が違えば選定基準も大きく変わります。
導入目的が明確でないまま価格だけで選んでしまうと、将来的な拡張性や制度対応に制限が出る可能性もあります。
メーカーが対応できる領域(住宅用、産業用、系統用など)や、実績のある分野(自治体、再エネ、商業施設など)を把握することが、最適なメーカー選定につながります。
蓄電池の種類と対応するメーカーの違い

リチウムイオン・NAS・鉛蓄電池の特徴と用途
法人が蓄電池を導入する際、最初に理解すべきポイントは「蓄電池の種類と特性」です。
中でも主流とされるのがリチウムイオン蓄電池で、高いエネルギー密度と長寿命、充放電の効率性から、産業用や系統用、さらにはVPP・DRといった市場取引への対応にも適しています。
多くのメーカーがこの方式を採用しており、汎用性が高く、今後の制度や市場の変化にも柔軟に対応できる技術といえるでしょう。
一方で、大容量・長時間の放電に特化したNAS電池(ナトリウム硫黄電池)は、高温で稼働する特殊な構造を持ち、電力系統の需給バランス維持や再エネ電源の出力平準化といった目的に強みを発揮します。
主にメガワット級の系統用として用いられており、日本国内では日本ガイシを中心とした導入実績が存在します。設置には専門的な設計と運用管理が求められますが、一定のニーズを持つ分野です。
もう一つのタイプとして、鉛蓄電池も存在します。構造がシンプルでコストが低く、短時間の電源バックアップなどに広く使われてきましたが、エネルギー密度やサイクル寿命の面ではリチウムイオンに劣ります。
そのため、現在では中長期運用やエネルギー制御が求められる用途においては選ばれることが少なくなりつつあり、主に限られた用途での活用が続いています。
用途別(住宅用・産業用・系統用)に強いメーカーの傾向
再エネとの連携や容量市場、需給調整市場向けの事業参入を見据えた導入が特徴です。蓄電池を展開するメーカーは、電池の種類だけでなく、その主な用途によっても得意領域が明確に分かれています。
住宅用蓄電池においては、パナソニックやシャープ、ニチコンなどが市場をリードしており、コンパクトな筐体設計や家庭向けの電力管理機能、太陽光発電との組み合わせに最適化された製品を多く展開しています。
V2H(Vehicle to Home)やHEMS(家庭用エネルギー管理システム)との連携も積極的に進められており、家庭レベルでの省エネや防災対応を目的とする導入が中心です。
これに対して、産業用蓄電池を展開する企業は、出力や容量の拡張性、安全性、メンテナンス体制といった法人ニーズへの対応力が求められます。
ニチコンや村田製作所、ELIIY Powerなどは、BCP対策や再エネ活用、自家消費率向上を目的としたソリューションを提供しており、物流倉庫や病院、ビルなどでの導入が進んでいます。
また、自治体との共同事業や補助金対応のノウハウも持ち、設計・導入から運用サポートまで一貫して対応できる点が評価されています。
系統用蓄電池においては、より高度なエネルギー制御や出力調整機能が求められるため、日立製作所、東芝インフラシステムズ、三菱電機といった大手電機メーカーの存在感が際立っています。
メガワット級の大型蓄電池システムに加えて、EMS(エネルギーマネジメントシステム)や電力市場連携に必要な制御ソフトウェアも含めた包括的なソリューションを提供しており、再エネ発電事業者や送配電事業者から高い評価を受けています。
さらに、TeslaやCATL、LG Energy Solutionといった海外メーカーも、日本市場において系統連携型の大容量蓄電池を拡大しており、価格競争力や技術革新を背景に導入が進んでいます。
主要蓄電池メーカーの特徴と強み【法人向け】

日立製作所
日立製作所は、国内外の系統用蓄電池市場で長年の実績を持つ総合電機メーカーです。
エネルギー分野では発電から変電・送電、エネルギーマネジメントに至るまで一貫した技術力を誇り、再エネ導入拡大や分散電源対応の課題に応えるためのソリューションを展開しています。
蓄電池分野においては、系統安定化・需給調整・ピークシフト・BCP対策など多岐にわたるニーズに対応できるラインナップを備えています。
特に、EMSとの連携によるエネルギー管理最適化や、DR(デマンドレスポンス)・VPP(仮想発電所)向けの統合ソリューションを強みとしており、再エネ事業者や自治体からの信頼も厚い企業です。
東芝インフラシステムズ
東芝インフラシステムズは、リチウムチタン酸電池「SCiB™」を中心に高耐久・高安全性の蓄電池を展開するメーカーであり、特に急速充放電性能や長寿命、耐熱性に優れた製品開発において業界をリードしています。
頻繁な充放電を伴う再エネの変動対応やBCP用途にも適しており、電力系統と高い親和性を持ちます。
また、送電網・配電設備との統合設計力に優れており、系統連系の最適化や高圧受電設備との接続実績も豊富です。自治体・公共施設向けをはじめ、大規模施設や工場への納入も進んでおり、社会インフラと一体となった提案力が評価されています。
三菱電機
三菱電機は、長年にわたり電力インフラ・制御機器分野で国内外に実績を持つ総合電機メーカーです。
蓄電池製品においても、高度な制御技術と自社開発EMSによるシステム統合力に優れ、需給バランス制御・ピークカット・レジリエンス強化といった多様な目的に対応可能です。
また、蓄電池単体での供給にとどまらず、配電盤、インバータ、EMSを含むトータルエネルギー制御システムを一括で設計・構築する提案力に強みを持っています。
工場や空港などの重要インフラから、地域マイクログリッド構築まで幅広い対応が可能で、BCP・エネルギーセキュリティを重視する法人にとって有力な選択肢です。
パナソニック
パナソニックは、住宅用蓄電池での高い知名度とともに、近年は産業用・法人向け市場への注力を強めています。
特に、太陽光発電との連携による自家消費最適化や、EV・V2H(Vehicle to Home)連携によるエネルギーマネジメントに強みがあります。
また、施設規模に応じた小型〜中型蓄電池のラインナップが充実しており、飲食・商業施設、宿泊施設、教育機関など幅広い業種で導入実績を持ちます。
製品品質の高さや全国ネットの施工・保守体制、ブランド信頼性も選定の大きなポイントとなります。
ニチコン
ニチコンは、コンデンサや電源機器の開発で培った技術をベースに、蓄電池分野でも独自の存在感を発揮しています。
特にEV・V2H関連機器との親和性が高く、地域の分散型エネルギー基盤や災害レジリエンスを支える製品展開を進めています。
家庭用から産業用、公共施設向けまで多様なラインナップを揃え、設置場所や電力使用特性に応じた柔軟な設計が可能です。地方自治体の補助金案件への対応実績も豊富で、申請支援・制度対応力も評価されています。
村田製作所(Murata)
電子部品大手として知られる村田製作所は、近年定置型蓄電池事業への参入を本格化させています。特に通信基地局やデータセンター、産業用設備における電源バックアップ用途で高い評価を得ており、独自の電池セル設計技術と高密度パッケージング技術を活かした製品開発が進められています。
通信やIoT分野に強い同社ならではの制御インターフェースや遠隔監視機能の実装も進んでおり、スマート制御を前提とした次世代型のエネルギーシステム構築を支える役割を担っています。
加えて、グローバルな製造・物流ネットワークを背景とした安定供給体制により、多拠点を持つ法人顧客からの信頼も厚く、BCP・レジリエンス強化に向けた最適解のひとつとして注目されています。
ELIIY Power(エリーパワー)
ELIIY Powerは、国産にこだわった蓄電池開発を行う企業であり、安全性の高いリン酸鉄リチウム(LFP)電池をベースにした製品で知られています。
LFPは熱暴走を起こしにくく、長寿命・高サイクル性能を持つため、BCPや非常用電源など安定性が求められる場面で多く採用されています。
同社の製品は、小型・中型の分散型電源として自治体庁舎や医療施設、介護施設などで多数導入されており、独自の構造設計により設置性・拡張性にも優れています。
加えて、国内製造による高品質と迅速な技術サポート体制が、信頼性重視の法人導入において高く評価されています。
エクセルギー(exergy)
エクセルギーは、日本発のエネルギーテック系スタートアップで、分散型電源の統合制御やVPP(仮想発電所)向け技術に特化しています。
蓄電池単体の販売ではなく、再エネの出力制御や市場調整力としての蓄電池活用において、エネルギー制御アルゴリズムやリアルタイム制御ソリューションを提供しています。 特に電力市場改革に呼応する形で、需給調整市場・容量市場・ネガワット取引といった新制度にも積極的に対応。
パートナー企業との共同プロジェクトや自治体向け実証事業を通じて、小規模事業者でも市場参入できる仕組み作りに貢献しています。俊敏な開発体制と高い市場感度が強みです。
TESLA(テスラ)
米国発のテスラは、Powerwall、Powerpack、Megapackなどの定置型蓄電池製品を展開するグローバルリーダーです。
特にPowerpackとMegapackは、大規模な系統連携や商業施設・公共施設における電力安定化、ピークカットなどに導入されており、日本国内でも複数の再エネ事業者や自治体との協業が進んでいます。
独自のバッテリーマネジメントシステム(BMS)と統合型のエネルギー制御ソフトウェアにより、拡張性と遠隔制御性に優れ、複数拠点のエネルギー統合管理にも対応可能です。世界各地での実績を活かした最先端の技術力と、大規模導入に向けたコスト効率が高く評価されています。
CATL(Contemporary Amperex Technology Co. Limited)
中国のCATLは、世界最大級の蓄電池メーカーであり、EV用バッテリーに加えて、定置型蓄電池分野でも世界的なシェアを誇っています。大容量・低コスト・量産体制の3点において非常に高い競争力を持ち、大規模な再エネ発電所向けや系統安定化用途で導入が進んでいます。
日本国内では、商社やエネルギー事業者を通じた導入が徐々に拡大しており、コンテナ型の蓄電池ユニットとして自治体や地域マイクログリッド向けにも供給が始まっています。国際競争力のある価格と納期、規模対応力が求められるプロジェクトで強みを発揮します。
LG Energy Solution(旧LG Chem)
韓国のLG Energy Solutionは、化学メーカーとしての母体を持ち、リチウムイオン電池技術における世界的なパイオニアです。
高エネルギー密度と高安全性を兼ね備えたセル技術に定評があり、グローバル規模での生産体制を活かして、安定的なサプライと長期保守体制を両立しています。
日本国内では、商業施設や自治体施設など中〜大容量蓄電池の導入が進んでおり、既存のEMSや太陽光発電システムとの連携実績も豊富です。
国際的な認証取得や環境基準への対応にも積極的で、ESG投資を意識した企業にも支持される選択肢となっています。
蓄電池メーカーの選び方|チェックすべき5つの視点

① 容量・出力・拡張性などのスペック
導入規模や将来的な拡張性を見据え、kWh(容量)とkW(出力)のバランスやシステム拡張性が合致するメーカーを選ぶ必要があります。特に、電力ピークに対応するか、長時間運転を重視するかで必要スペックは大きく異なります。
② 保証期間とアフターサポート
法人向けの蓄電池は10年以上の運用を前提とするため、長期保証と定期点検・交換対応などの保守体制の有無は非常に重要です。メーカーによる直接対応か、販売代理店任せかといった違いにも注目すべきです。
③ EMSやVPPとの連携実績
将来的に需給調整市場や容量市場に参入する可能性がある場合は、VPPやEMSとの接続実績があるメーカーを選ぶと安心です。通信規格やインターフェースの柔軟性も確認ポイントとなります。
④ 導入実績(自治体・工場・病院など)
自社と同様の業種・施設での導入事例があるかどうかは、実運用での信頼性やノウハウの蓄積に大きく影響します。特に自治体案件での実績は、補助金対応や緊急時対応力の指標にもなります。
⑤ 補助金や制度対応のサポート力
地方自治体や経済産業省による補助制度を活用する場合、申請手続きや制度適合のための仕様書対応など、メーカーのサポート力が問われます。補助金獲得実績や行政対応ノウハウも評価軸に入れるべきです。
導入事例から見るメーカー選定のポイント
公共施設での実績が多いメーカーの特徴
自治体や学校、病院などの公共施設では、安全性・耐久性・サポート体制の確立が求められるため、高耐久電池を展開する東芝インフラシステムズやELIIY Powerが選ばれる傾向があります。災害時の対応力やBCP対策を重視する施設に適しています。
電力会社・再エネ事業者が選ぶメーカーとは
電力会社や再エネ事業者は、容量市場やDR事業を見据えた高度な制御性を求めるため、日立製作所や三菱電機、海外勢のTESLAやCATLなどを採用するケースが多く見られます。拡張性・制御性・コストのバランスが重視されます。
コストだけで選ばないための判断軸
導入コストが安いことは魅力ですが、補助金対象外となるスペックやサポートの不備があれば、長期的な運用で不利になることもあります。信頼性、導入実績、制度適合性、メンテナンス体制など、多角的に比較することが必要です。
まとめ|自社に最適な蓄電池メーカーを選ぶために
蓄電池導入においては、単なる価格比較だけでは最適な選定はできません。
自社の導入目的、施設の電力使用状況、今後のエネルギー戦略を明確にした上で、スペック・保証・連携実績・補助金対応といった複数の観点からメーカーを総合的に評価する必要があります。
導入後の運用も見据えた長期視点で、自社に最適なパートナーを選定することが、成功への第一歩となります。