FIP転とは?FIT制度からFIP制度への移行を徹底解説|再エネ発電所が知るべきポイント

日本では、再生可能エネルギーの普及促進とエネルギーの脱炭素化を目的として、2012年にFIT制度(固定価格買取制度)が導入されました。

この制度のもと、多くの太陽光発電所や風力発電所、バイオマス発電所が全国各地で稼働してきました。

しかし、再エネが「導入」から「自立」へと移行する現在、政府は新たにFIP制度(フィードインプレミアム制度)を導入し、市場原理に基づいた電力取引へと制度を進化させています。

この中で注目されているのが「FIP転(FIP転換)」という動きです。

これは、すでにFIT制度で認定を受けた発電所が、自発的にFIP制度に移行することを意味し、今後の再エネ事業運営に大きな影響を与えるものです。

本記事では、FIP転の意味から背景、メリット・デメリット、手続き、実務上の注意点、今後の展望に至るまで、体系的に解説していきます。

FIT制度からFIP制度への移行を考えている事業者や、再生可能エネルギー分野への新規参入を検討している方にとって、制度理解を深めるための参考となる内容です。

目次

FIP転とは?FIT制度からの移行の意味と背景

FIP転とは、「FIT制度で認定されている再エネ発電所が、FIP制度へ切り替えること」を指します。

2022年4月から本格的に導入されたFIP制度は、再エネの市場統合と自立化を進めるための新たな制度設計として注目されています。

従来のFIT制度は、発電事業者にとっては売電単価が20年間固定されるという非常に安定した制度で、再エネ市場の立ち上げには不可欠な仕組みでした。

しかし、その一方で、市場価格の変動を反映しない仕組みは、電力取引の効率性や市場原理との乖離を引き起こし、再エネの「主力電源化」に向けた課題も浮き彫りになってきました。

これらの背景を受けて導入されたFIP制度は、発電事業者が市場で電気を販売し、その売電価格に応じたプレミアム(補助)を国が支給するという設計になっています。

すなわち、価格変動リスクを事業者が一定程度負うことで、市場参加と需給調整の責任を担い、より高度な事業運営を行う必要があるのです。

FIT制度とFIP制度の違いとは?

FIT制度とFIP制度の違いとは?

再生可能エネルギーの普及を支える柱として、日本では長らくFIT制度と呼ばれる固定価格買取制度が活用されてきました。

しかし、再エネの導入が拡大し市場環境が変化する中で、新たにFIP制度という市場連動型の仕組みが導入され、徐々に主流へと移行しつつあります。

この二つの制度は、どちらも再エネ事業者にとっては売電収益を支える重要な制度でありながら、その性質やリスクの在り方、事業運営の方法に大きな違いがあります。

FIT制度(固定価格買取制度)

FIT制度は、国が再生可能エネルギーの導入を加速させるために2012年に本格導入した仕組みです。

この制度では、国があらかじめ決定した一定の価格で、電力会社が再エネ由来の電気を一定期間必ず買い取ることが義務付けられています。

例えば、発電開始から20年間というように期間が固定され、その間は売電単価が変わらないため、発電事業者は電力市場の価格変動を気にすることなく事業を継続できます。

こうした安定性は、特に設備投資額が大きく初期リスクの高い太陽光や風力などの発電事業にとって非常に魅力的であり、金融機関からの融資を受けやすくする効果もありました。

再エネ市場の立ち上げ期において、この収益の確実性は国内外から多くの事業者を呼び込み、日本各地で太陽光発電所や風力発電所の建設ラッシュを引き起こしました。

一方で、市場価格の動向とは関係なく固定単価で買取が行われるため、電力市場との連動性が薄く、再エネが本格的に主力電源として市場に参加する上では限界があるとも指摘されてきました。

FIP制度(フィードインプレミアム制度)

これに対してFIP制度は、市場原理をより強く反映した仕組みです。

発電事業者はまず、卸電力市場などで電気を販売し、その市場価格に国が定めたプレミアム額を上乗せした金額が売電収入となります。

市場価格が高騰すれば、プレミアムと合わせて収益が大きく伸びる可能性がありますが、反対に市場価格が低迷すると、プレミアムを加えてもFIT時代より低い収入しか得られないこともあります。

つまり、FIP制度では価格変動のリスクを事業者自らが負う必要があり、発電量や販売戦略、売電先の選択が収益性に直結します。

さらに、FIP制度の下では、発電計画と実績に乖離が生じた場合、その差分についてインバランス料金が発生するため、正確な発電予測や需給調整の対応力が求められます。

このため、多くの事業者はアグリゲーターと呼ばれる電力取引の専門事業者と契約し、インバランスリスクの軽減や市場での有利な売電を実現しようとしています。

FIP制度は、安定的な保護を与えるFIT制度と比べると挑戦的な環境ですが、その分、市場の動向を活かせる柔軟性や高収益のチャンスがある制度といえます。

なぜ今、FIP転が進められているのか?

電力市場の自由化による制度の再設計

日本の電力市場は2016年の小売全面自由化を皮切りに、送配電分離や卸電力市場の整備など、競争環境の拡大と透明化が進んできました。

この中で、固定価格で長期間買い取りを保証するFIT制度は、市場価格と切り離された保護型制度として機能してきましたが、自由化が進む市場の柔軟性や競争性と相反する側面を持ち始めました。

例えば、電力価格が高騰してもFIT電源は市場に追加供給を行わず、逆に価格が低迷しても固定価格で売電できるため、需給バランスに対する市場の自律的な調整機能が働きにくくなります。

この構造的課題を解消するため、市場価格に連動しつつプレミアムで収益を支えるFIP制度が設計され、移行が推進されているのです。

インバランスリスクと系統安定性の問題

再エネ電源は天候や自然条件に大きく左右されるため、発電計画と実績の差が発生しやすいという特徴があります。

FIT制度下では、この差によるインバランス(需給誤差)の責任は事業者に課されず、電力会社や系統全体で負担してきました。

しかし、太陽光や風力の大量導入が進むにつれ、このインバランスが系統全体の安定性を脅かす要因となりつつあります。

FIP制度では、事業者がインバランス責任を一部負担する仕組みを導入することで、発電予測精度の向上や需給調整能力の強化を促します。

系統全体の安定運用が可能となり、再エネのさらなる拡大を持続的に支える環境づくりが進むことが期待されています。

国の財政的負担の軽減

FIT制度による固定価格買取の原資は、再エネ賦課金として電気料金に上乗せされ、最終的には全国の消費者が負担しています。

この仕組みは再エネ導入初期には有効でしたが、再エネ比率が高まるにつれて賦課金総額が膨らみ、国民負担の増加が社会的課題となりました。

FIP制度では、市場価格にプレミアムを加える形で収益を構成するため、国が全額を保証する必要がなく、財政負担を抑えやすくなります。

加えて、市場価格の動向に応じて事業者の収益が変動するため、過剰な補助金支出を回避できる点も、制度転換を推進する大きな理由です。

FIP転のメリット

市場価格上昇時の収益増加

FIP制度の大きな特徴は、市場価格に連動して売電単価が変動することです。

市場価格が高騰した際には、国が定めるプレミアム額がそのまま加算されるため、FIT制度の固定価格よりも高い収益を得られる場面があります。

特に電力需要が急増する夏季や冬季のピーク時、または燃料価格の高騰や需給逼迫によって市場価格が上昇する局面では、FIT時代には得られなかった追加利益を享受できる可能性があります。

市場動向を正しく読み、アグリゲーターと連携して高価格帯に売電を集中させることで、このメリットを最大限に活かせます。

アグリゲーターとの連携による収益多様化

FIP制度では、単なる市場売電だけでなく、需給調整市場や容量市場といった新たな市場にも参入する道が開かれます。

これらは、電力の調整力や供給力を取引する市場で、発電量の安定性や出力制御能力を持つ事業者に報酬が支払われます。

市場に単独で参入するのは難しいですが、アグリゲーターと連携すれば、他の発電所や需要家と束ねて参加でき、売電以外の安定収益を確保できます。

さらに、VPP(バーチャルパワープラント)やデマンドレスポンスなど、今後拡大が見込まれる分野への参入機会も広がります。

政策動向に柔軟に対応できる

FIT制度は新規案件の対象範囲が縮小され、将来的には完全に終了することが見込まれています。

早期にFIP制度へ移行し、制度運用や市場取引のノウハウを蓄積しておくことは、将来の完全市場化に備えるうえで有効な戦略です。

特に、FIT期間の残りが少ない発電所や、今後も長期的に事業を継続する予定の事業者にとっては、今のうちに市場連動型の運営に慣れておくことが、制度変更による混乱や収益減少を回避するリスクヘッジになります。

FIP転のデメリット

市場価格下落リスク

FIP制度は市場価格と連動するため、売電単価は常に変動します。市場価格が下落すれば、プレミアムを加えてもFIT制度の固定価格より低くなる場合があります。

特に、再エネの大量導入によって供給過剰になった時間帯や、燃料価格の下落に伴って市場価格が下がる局面では、予想以上に収益が落ち込むリスクがあります。

市場動向に大きく依存するため、価格変動への耐性を高めるための資金計画やリスク管理が必要です。

発電予測とインバランス責任への対応が必須

FIP制度では、発電計画と実際の発電量の差に応じてインバランス料金が発生します。

これは天候変化や設備トラブルによって容易に発生するため、計画精度を高める仕組みが不可欠です。

高精度の気象予測やリアルタイムの発電監視システムを導入し、アグリゲーターと連携して発電計画を逐次修正することで、インバランスの発生を抑えることが可能になります。

これらの対応が不十分だと、インバランス料金が積み重なり、利益を圧迫します。

初期投資や運用コストの増加

FIP転に伴い、既存設備だけでは制度運用に対応できないケースも少なくありません。

スマートメーターや30分値対応の通信機器、発電予測システムの導入など、追加の設備投資が必要になる場合があります。

また、アグリゲーターとの契約費用や市場取引に関わる事務・運用コストも発生します。

FIT制度ではほぼ不要だった日々の市場モニタリングや需給調整対応のために、人的リソースの確保や外部委託費の増加が避けられないケースもあります。

FIP転の手続きと実務上の注意点

ステップ1:FIP転換の申請と認定

FIP制度に移行するためには、まず国による正式な認定を受ける必要があります。

申請は一般的に、再生可能エネルギー事業の支援機関であるSII(一般社団法人環境共創イニシアチブ)などを通じて行います。

申請書には発電所の基本情報、設備容量、運転開始日、売電実績、そしてFIP制度に適合した運営計画などが求められます。

 認定プロセスには一定の期間がかかるため、FIT期間満了や事業計画の節目に合わせて余裕を持って準備することが重要です。

また、申請にあたっては最新の制度要件や提出書類のフォーマットが年度ごとに変更されることがあるため、事前に公式情報を確認し、漏れなく対応する必要があります。

ステップ2:メーター・測定装置の整備

FIP制度下では、発電計画値と実績値を30分単位で計測し、国やアグリゲーターに報告する義務があります。

そのため、従来のFIT制度で使用していた計測機器がこの要件を満たしていない場合、高精度のスマートメーターやデータロガー、遠隔監視システムなどの導入が必要になります。

特に通信環境も重要で、安定したデータ送信ができなければ、発電量の報告遅延や欠損が発生し、インバランス計算に不利な影響を与える可能性があります。

機器選定の際は、アグリゲーターや機器メーカーと仕様をすり合わせ、制度要件と実運用の両面から適合性を確認することが不可欠です。

ステップ3:アグリゲーターとの契約

FIP制度では、発電所が単独で市場取引や需給調整を行うのは現実的に困難です。そのため、多くの発電事業者は電力取引の専門事業者であるアグリゲーターと契約し、市場取引やインバランス対応を委託します。

契約にあたっては、手数料や報酬体系だけでなく、提供するサービスの範囲(市場取引代行、需給調整市場参加、VPP運用など)、発電予測精度、運営実績なども比較検討することが大切です。

また、契約期間や途中解約時の条件も事前に確認し、将来の戦略変更に対応できる柔軟性を確保することが望まれます。

FIP転を選択すべき発電所の特徴とは?

FIP転を選択すべき発電所の特徴とは?

FIP転はすべての発電所にとって必ずしも最適解ではありません。

制度移行に伴い、価格変動リスクやインバランス責任など、これまでFIT制度下ではほとんど意識しなかった要素が事業運営に加わります。

そのため、自社の設備や運営体制、資金力を冷静に分析し、移行によって得られるメリットと負担を総合的に評価することが重要です。

発電量の予測精度が高い発電所

FIP制度では、発電計画値と実績値の差に応じてインバランス料金が発生します。予測精度が低ければコストが増加し、せっかく市場価格が高くても利益が削られる可能性があります。

そのため、気象予測システムや発電監視設備を活用し、日射量や風況を的確に把握できる発電所はFIP転に適しています。

特に、出力変動が比較的少ないバイオマス発電や地熱発電は、計画と実績の差が小さく安定的な運営が可能なため、有利に働きやすいといえます。

市場価格の高騰を活かせる柔軟な運用体制

市場連動型のFIP制度では、売電のタイミングや出力量を柔軟に調整できる発電所が優位です。

例えば、市場価格が高騰する時間帯に合わせてアグリゲーターと協力し、発電量を増やすことができます。

蓄電池を備えて価格の安い時間帯に充電し、高値の時間帯に放電するといった運用も可能です。

固定価格で売電するFIT制度の場合よりも、高い収益を狙える場合があります。運用にはリアルタイムの市場データ取得と制御機能が不可欠です。

複数の収益源を確保できる発電所

売電だけに依存せず、需給調整市場や容量市場、VPP(バーチャルパワープラント)事業などにも参入できる発電所は、FIP制度下でも安定的に収益を確保しやすくなります。

これらの市場では、電力の提供だけでなく調整力や予備力に対しても報酬が発生するため、電力単価が低迷しても収益源を分散できます。

単独では参入が難しい市場も、実績豊富なアグリゲーターと契約することでアクセス可能になる場合があります。

制度対応に必要な投資余力がある発電所

FIP転に伴い、スマートメーターや高精度の発電予測システム、データ通信設備の導入が必要になることがあります。

こうした追加投資を負担できる資本力を持ち、長期的な視点で制度対応を計画できる発電所は、FIP転後も安定した運営が可能です。

逆に、予算や資金繰りに余裕がない場合は、制度対応が遅れて市場での競争力を失うリスクがあります。

FIT期間が残り少ない発電所

FITの残存期間が短い発電所は、いずれ市場型制度への移行が必要になります。

早めにFIP転を行い、市場運営のノウハウを蓄積しておくことで、将来的な完全市場化にもスムーズに対応できます。

特に数年後にFIT期間満了を迎える事業者は、今からアグリゲーターとの関係構築や市場運営の経験を積むことが有効です。

まとめ|FITからFIPへの転換は、再エネ事業の進化に向けた一歩

FIP転とは、単なる制度の切り替えではなく、再エネ事業者が自立的・市場競争的に成長するための重要な転換点です。

FIT制度によって構築された安定的な再エネ事業基盤を、今後はFIP制度を通じて次のレベルへと進化させていく必要があります。

市場価格変動やインバランス責任などのリスクはあるものの、それを乗り越えることで得られる成長機会は大きく、再エネを主力電源として位置づける未来を実現するためにも、FIP転への理解と準備は不可欠です。

政府は2030年に向けて、再エネ比率の拡大(36~38%)を目指しており、その実現には市場統合型の制度が不可欠です。FIP制度はその中核を担う制度として位置づけられています。

今後は、需給調整市場や分散型エネルギーの統合に向けて、VPP(バーチャルパワープラント)などとの連携も進むと予想されており、FIP制度対応は単なる制度転換にとどまらず、再エネビジネスの「次のステージ」への橋渡しとなるでしょう。

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