太陽光発電を導入してから11年目を迎えると、多くの家庭や事業所で固定価格買取制度(FIT)が終了します。これまで高い売電収益を得ていた方々にとって、FIT終了後の選択肢は大きな課題となります。売電価格が市場価格に切り替わることで収益が減少する一方、自家消費型へ切り替えることで発電した電力を効率的に活用し、電気代を削減することが可能です。
本記事では、FIT終了後に自家消費を始めるメリットや必要な準備、成功事例などを徹底解説します。これからのエネルギー活用をより賢く、持続可能な形で進めるためのヒントを見つけてみましょう。
固定価格買取制度(FIT)とは?
固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariff)は、再生可能エネルギーの普及を目的に、日本政府が2012年に導入した仕組みです。この制度では、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーで発電された電力を、一定期間、固定価格で電力会社が買い取ることを義務付けています。これにより、再生可能エネルギーの導入を促進し、持続可能なエネルギー社会の構築を目指しています。
固定価格買取制度(FIT)の仕組み
FITでは、太陽光発電システムを設置した事業者や家庭が、発電した電力を電力会社に売電できます。売電価格は、導入時の契約条件に基づいて固定され、家庭用の場合は通常10年間、産業用の場合は20年間保証されます。この固定価格は、設置年度によって異なり、導入コストの低下や市場環境の変化に応じて毎年見直されています。これにより、早期に導入した事業者ほど高い売電価格で契約することができ、導入のインセンティブが強化されました。
固定価格買取制度(FIT)制度の目的
固定価格買取制度は、再生可能エネルギーの普及促進を主要な目的としています。これにより、化石燃料への依存を減らし、エネルギー自給率を向上させることが期待されました。また、地球温暖化対策として二酸化炭素(CO₂)排出量の削減を目指すとともに、東日本大震災後のエネルギー政策の見直しに伴い、原子力発電への依存を減らすための重要な柱として位置づけられています。
固定価格買取制度(FIT)制度の終了とその影響
固定価格買取制度は、導入後10年以上が経過した現在、転換期を迎えています。FITで設定された売電価格が終了すると、11年目以降は売電価格が市場価格に切り替わります。市場価格はFIT時の固定価格に比べて大幅に低下することが一般的で、収益性が低下するため、FIT終了後の対策が重要になります。この影響を受け、多くの家庭や事業所では、自家消費型太陽光発電への切り替えが注目されています。
自家消費とは?固定価格買取制度(FIT)終了後に注目される理由
自家消費とは、太陽光発電システムで発電した電力を自宅や事業所で直接利用する仕組みのことを指します。これにより、発電した電力を外部に売電せず、自分の電力需要を賄うことができます。固定価格買取制度(FIT)がスタートした当初は、発電した電力を高い価格で売電することが一般的でしたが、FIT終了後はその状況が変わりつつあります。売電収益に頼るだけではなく、発電した電力を自ら効率的に使う「自家消費」が注目される理由を見ていきましょう。
売電価格の低下による収益性の変化
FIT制度により、導入から10年間は固定価格で売電できるため、多くの家庭や事業所では売電収入を大きなメリットとしてきました。しかし、11年目以降はFIT契約が終了し、売電価格は市場価格に基づくものに切り替わります。この市場価格は、FIT期間中の固定価格よりも大幅に低くなるため、売電収益が減少するのが一般的です。これにより、発電した電力を自家消費して電気代を削減する方が経済的に有利になるケースが増えています。
電気料金の上昇リスクへの対応
近年、電力料金が上昇傾向にある中、自家消費型太陽光発電は電力コストの安定化に貢献します。自分で発電した電力を消費することで、電力会社から購入する電気量を減らし、電気料金の上昇リスクを回避することが可能です。また、エネルギー自給率を高めることができるため、長期的な家計や事業運営の負担軽減につながります。
環境への貢献と社会的意義
自家消費型太陽光発電は、再生可能エネルギーを利用することで、二酸化炭素(CO₂)の排出を大幅に削減します。特に、カーボンニュートラルや脱炭素社会の実現が求められる現在、企業や家庭が自家消費を導入することは、環境保護への具体的な貢献となります。企業の場合、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の一環として、自家消費型のエネルギー活用をアピールすることも可能です。
非常時の電力確保
自家消費型太陽光発電は、蓄電池を併用することで停電時にも電力を供給することができます。災害時の備えとしての価値も高まり、多くの家庭や事業所で注目されています。FIT終了後に売電を主とする運用から切り替えることで、非常時でも安定したエネルギー供給を確保できる点が魅力です。
固定価格買取制度(FIT)終了後に自家消費を始める準備と方法
固定価格買取制度(FIT)の終了後、太陽光発電を有効に活用するためには、自家消費への切り替えが有力な選択肢となります。売電収益が低下する一方で、自家消費を始めることで電気代を削減し、発電した電力を効率的に活用できます。ここでは、FIT終了後に自家消費を始めるための具体的な準備と方法について解説します。
現在の発電システムを確認する
まず、既存の太陽光発電システムが自家消費に対応可能かどうかを確認します。FIT終了後のシステムでも、多くの場合はそのまま自家消費に切り替えることができますが、蓄電池が設置されていない場合や、古い機器を使用している場合には、アップグレードが必要になる場合があります。特にパワーコンディショナーの寿命(約10~15年)や性能を確認し、必要であれば交換を検討しましょう。
蓄電池を導入する
自家消費を最大限活用するためには、蓄電池の導入が効果的です。昼間に発電した電力を蓄電池に貯めて、夜間や天候が悪い日に使用することで、購入する電力量をさらに削減できます。蓄電池を選ぶ際には、容量や寿命、費用対効果を考慮しましょう。また、蓄電池の導入には初期費用がかかるため、国や自治体が提供する補助金制度を活用すると良いです。
エネルギー管理システム(EMS)を活用する
エネルギー管理システム(EMS)は、自家消費を効率的に行うために役立ちます。このシステムを導入することで、発電量や消費量をリアルタイムでモニタリングでき、蓄電池や電化製品の稼働を自動的に最適化します。EMSを活用することで、無駄な電力消費を抑え、自家消費を最大化できます。
生活や業務スタイルを調整する
自家消費を効果的に行うには、日中の発電量が多い時間帯に合わせて電力を使用することが重要です。例えば、家電製品の使用や業務のスケジュールを昼間に集中させることで、自家消費率を高めることができます。また、電気自動車(EV)を所有している場合、日中に充電することで効率的なエネルギー活用が可能です。
設置業者や専門家に相談する
FIT終了後の自家消費への切り替えは、専門知識が必要な場合もあります。設置業者やエネルギーコンサルタントに相談し、既存の設備状況や自家消費に必要な機器を確認しましょう。多くの業者は蓄電池やEMSの導入を含めたプランを提案してくれるため、費用や運用方法を比較しながら最適な選択肢を見つけることができます。
補助金や支援制度を活用する
国や自治体では、蓄電池や太陽光発電システムのアップグレードに対する補助金を提供している場合があります。補助金の利用には申請手続きが必要で、申請書類や条件が異なるため、住んでいる地域の制度を事前に調べることが重要です。補助金を活用することで、初期費用の負担を軽減し、切り替えのハードルを下げることができます。
自家消費を最大化するための工夫とポイント
自家消費型太陽光発電を最大限に活用するためには、効率的な運用が欠かせません。発電した電力を無駄なく消費し、電力購入量を減らすことで経済的なメリットを高めることができます。ここでは、自家消費を最大化するための具体的な工夫とポイントを紹介します。
昼間の電力使用量を増やすライフスタイルの工夫
自家消費型太陽光発電は、発電している時間帯に電力を使用することで最大限の効果を発揮します。例えば、洗濯機や食洗機を昼間に稼働させる、電気自動車(EV)の充電を日中に行うなど、生活の中で電力を使用する時間を昼間にシフトすることで、発電量を効率よく活用できます。また、タイマー機能を活用することで、自動的に日中に家電が稼働するよう設定するのも効果的です。
蓄電池を活用して余剰電力を無駄にしない
昼間に発電した電力が消費しきれない場合でも、蓄電池を導入することで余剰電力を貯めておき、夜間や曇りの日に利用することが可能です。これにより、自給自足率が向上し、電力購入量をさらに減らすことができます。蓄電池の容量や寿命、費用対効果を考慮し、自宅や事業所の消費量に適した製品を選ぶことが重要です。
エネルギー管理システム(EMS)の導入
エネルギー管理システム(EMS)は、発電量と消費量をリアルタイムでモニタリングし、電力の使用を最適化するシステムです。これにより、電力の使用タイミングを調整し、発電した電力が無駄にならないよう管理できます。たとえば、発電量が多い時間帯にエアコンや給湯器を稼働させるなど、システムが自動で調整してくれるため、効率的な自家消費が可能です。
高効率の電化製品を導入する
自家消費を最大化するためには、エネルギー効率の高い電化製品を使用することもポイントです。特に、エアコン、冷蔵庫、給湯器などの大型家電は電力消費が多いため、省エネ性能が高い製品を選ぶことで電力を有効活用できます。また、オール電化を検討することで、太陽光発電の電力をさらに多くの用途に活用できるようになります。
発電量と消費量のバランスを見直す
自家消費を効率的に行うためには、発電量と消費量のバランスを適切に保つことが重要です。太陽光発電システムの規模が過剰だと余剰電力が増え、逆に規模が不足すると電力を補うための購入量が多くなります。家庭や事業所の消費電力量を把握し、それに見合った発電設備を選ぶことで、バランスの良い運用が可能になります。
定期的なメンテナンスで発電効率を維持する
ソーラーパネルや蓄電池の劣化や汚れは、発電効率の低下を引き起こします。定期的にメンテナンスを行い、パネル表面の清掃や蓄電池の動作確認をすることで、安定した発電を維持できます。また、設置業者による定期点検を依頼することで、見落としがちな問題を早期に発見し、修繕費用を抑えることができます。
自家消費型への切り替えに利用できる補助金や支援制度
太陽光発電を自家消費型へ切り替える際、初期費用が課題となることがあります。しかし、国や自治体が提供する補助金や支援制度を活用すれば、蓄電池やエネルギー管理システム(EMS)の導入費用を軽減し、負担を抑えながら効率的なエネルギー利用を実現できます。ここでは、自家消費型への切り替えに利用できる主な補助金や支援制度について解説します。
国が提供する補助金制度
① 再生可能エネルギー導入支援補助金
この補助金は、家庭や事業所での再生可能エネルギー導入を促進するための制度です。特に蓄電池の設置やEMSの導入など、自家消費型太陽光発電への移行に関連する費用を補助する対象となります。補助額は機器の性能や設置規模に応じて異なり、蓄電池の場合は容量1kWhあたりの補助金額が設定されています。
② ZEH(ゼロエネルギーハウス)支援事業
国土交通省や経済産業省が推進するZEH支援事業は、自宅をエネルギー効率の高い「ゼロエネルギーハウス」にするための取り組みをサポートします。太陽光発電システムや蓄電池の設置に加え、高効率な断熱材や空調設備の導入も補助の対象です。自家消費を最大化する家庭には適した制度といえます。
自治体が提供する補助金制度
① 蓄電池導入補助金
多くの自治体では、家庭用蓄電池の導入に対する補助金を提供しています。補助額は自治体ごとに異なりますが、設置費用の一部(例:1kWhあたり1万円など)を補助する形式が一般的です。一部の自治体では、災害対策としての蓄電池設置に重点を置き、特に停電リスクの高い地域に対して手厚い支援を行っています。
② 自家消費型太陽光発電設備補助金
自治体によっては、蓄電池やEMSに加えて、太陽光発電システムそのものの設置費用を補助する制度を設けています。これには、FIT終了後に売電から自家消費へ移行する家庭や事業所を対象とした特別なプログラムも含まれます。詳細な条件や補助額は自治体ごとに異なるため、公式ウェブサイトや窓口で確認しましょう。
地域特有の支援制度
① 地域電力会社の助成プログラム
一部の地域電力会社では、エネルギー自給率の向上を目的に、自家消費型太陽光発電システムや蓄電池の導入に対する助成金や割引プランを提供しています。また、電力会社が提供する「自家消費+売電併用モデル」の導入支援プログラムも利用できる場合があります。
② 災害対策支援金
災害リスクが高い地域では、非常用電源としての蓄電池や太陽光発電の設置を推奨するための支援金が用意されています。これにより、非常時にも電力を確保できる家庭や施設を増やすことが目的です。
まとめ:FIT終了後は自家消費で賢く太陽光発電を活用しよう
固定価格買取制度(FIT)の終了は、売電を中心に運用してきた太陽光発電システムの大きな転機となります。しかし、FITが終わったからといって太陽光発電の価値が下がるわけではありません。むしろ、自家消費に切り替えることで、電気代の削減やエネルギー自給率の向上といった新たなメリットを得るチャンスとなります。蓄電池やエネルギー管理システム(EMS)を導入し、昼間の余剰電力を夜間や曇りの日に活用することで、効率的で経済的な運用が可能になります。
さらに、補助金や自治体の支援制度を活用すれば、設備投資の負担を軽減しながら自家消費型への移行を進めることができます。エネルギーを賢く管理し、持続可能な生活や事業運営を目指すために、自家消費への切り替えはこれからの標準的な選択肢と言えるでしょう。FIT終了後の太陽光発電を無駄にしないために、自家消費でその価値を最大限に引き出し、よりスマートなエネルギー活用を始めてみましょう。